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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)348号 判決

奈良市登美ヶ丘五-一-一三

控訴人

黒田重治

右訴訟代理人弁護士

溝上哲也

東京都港区芝浦一丁目一二番三号

被控訴人

三菱 油化産資株式会社

(旧商号・菱和産資株式会社)

右代表者代表取締役

桝田好平

右訴訟代理人弁護士

上村正二

石葉泰久

石川秀樹

田中愼一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年五月七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

(これは、原審における二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年五月七日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員の請求を、当審において減縮したものである。)

3  訴訟費用は、第一、第二審を通じ被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次の一及び二のとおり付加訂正するほか、原判決事実及び理由欄第二「事案の概要」(末尾添付の特許公報及び物件目録を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一枚目裏末行の「特許権を有する」を「特許権を有していた」に、二枚目表六行目の「有している。」を「有していた。」に各改める。

二  原判決四枚目表五行目冒頭から九行目末尾までを次のとおり改める。

「 より具体的には、本件発明の構成要件A『表面が平板状で、裏面には複数の嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体の、』にいう『嵌合用段部』は、成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものに限定されるか否か。すなわち、控訴人は、『嵌合用段部』は成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものに限定されず、成形板本体とは別個の部材をもって形成されたものも含むと解すべきであり、したがって、右嵌合用段部に相当する部分が成形板本体とは別個の部材をもって形成されているイ号物件も、構成要件Aを充足し、本件発明の技術的範囲に属すると主張し、これに対し、被控訴人は、『嵌合用段部』は成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものに限定されると解すべきであり、したがって、イ号物件は構成要件Aを充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないと主張する。

仮に、被控訴人主張のとおり『嵌合用段部』は成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものに限定されるとした場合、控訴人の均等の主張は成り立つか。」

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1について

当裁判所も、本件発明の構成要件A『表面が平板状で、裏面には複数の嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体の、』にいう『嵌合用段部』は、成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものに限定され、控訴人の均等の主張も成り立たないから、イ号物件は本件発明の構成要件Aを充足せず、したがって本件発明の技術的範囲に属しないと判断するものであるが、その理由は以下のとおりである。

1  本件発明における嵌合用段部について検討する。

(一) 本件特許請求の範囲の構成要件A「表面が平板状で、裏面には複数の嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体の」にいう「嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体」という語は、通常、「合成樹脂製成形板本体」の一部分に「嵌合用段部」が形成されていること、換言すれば、「嵌合用段部」が「合成樹脂製成形板本体」の一部分をなしていることを意味するものと解されるどころ、本件公報(甲二)によれば、明細書の発明の詳細な説明には、本件発明について「以下その具体例を図に基づいて説明する。」(2欄4行目ないし5行目)としたうえ、「第8図から第11図に示されるように、成形板本体2の下面には円筒状の脚部材3に軽く嵌合するような段部4'……が設けられている。」(同欄25行目ないし29行目)と記載され、更に、図面の簡単な説明において「第8図乃至第11図は本発明パレットの要部を示す拡大断面図である。」(1欄16行目ないし17行目)として、第8図ないし第11図には、いずれも前記段部4'が成形板本体の裏面にこれと一体成形されたもののみが示されており、嵌合用段部が成形板本体とは別個の部材をもって形成されたものを含むことを示唆するような記載は存しない。

(二) 本件発明出願前公知の先行技術として、明細書(本件公報)によれば、合成樹脂材で一体的に成形されたパレットが存在したが(弁論の全趣旨によれば、検甲第一号証は、そのようなプラスチックパレットを五分の一に縮小したモデルと認められる。)、このようなパレットは、成形金型が複雑かつ大形となるばかりでなく、高価な成形機を必要とするため高価となり、更に形状が複雑になるため品質面において歪みやソリなどが生じ耐久性が低下するなどの種々の問題が残るという欠点があったというのであり(3欄41行ないし4欄2行)、また、特公昭三六-二三二一八号公報(甲四。以下「引用公報」という。)に記載された荷積用パレットは、隔置柱(本件発明にいう脚部材に相当する。)をプラットホーム間の定位内に装着するためのカップを挿入する複数の開口を設けた波形板紙、合板、合成ボードなど種々の組成のシート材料により形成された平らな上部及び下部プラットホーム(本件発明にいう、表面が平板状の合成樹脂製成形板本体に相当する。)、直径が右開口の直径に等しい円筒形軸孔を有する複数の隔置柱、隔置柱の内径に実質的に等しい外径の円筒壁とその一端に外側直角フランジを有する一対のカップから成り、上部及び下部のプラットホームのすべての開口に挿入された一対のカップの円筒壁が隔置柱の内面に摩擦的に堅く嵌合するとともに、その外側直角フランジがプラットホームの外側面に対して触圧するという構造のものであるところ、このような荷積用パレットにおいては、プラットホームに比較的大きな開口が穿設されるので成形後の成形収縮時にこの比較的大きな開口に起因するそりや歪みなどの変形が生じやすく、また、構造上前記開口がプラットホームの周辺部に設けられることが要請されるので強度上問題があるという欠点があるうえ、隔置柱が設けられている部分はパレットを着地させる際衝撃力が加わりやすく特にパレットが斜めに着地した際は衝撃力が極めて大きく比較的大きな開口が穿設されているため破損しやすいという欠点があった(1欄26行目ないし2欄1行目、4欄3行目ないし6行目)ので、本件発明は、この欠点を解消したもの(2欄2行目ないし3行目)であって、成形板本体に比較的大きな開口を穿設する必要が全くなくシンプルな形状ですむので、成形板本体を成形する際にそり、歪み等の変形が生じることなく強度上も極めて大きいものを得ることができる(4欄7行目ないし11行目)というのである。そして、本件発明においては、合成樹脂製成形板本体の裏面に形成された嵌合用段部に、一端側に嵌合部を有する脚部材の嵌合部を嵌合し、同脚部材の他端側に右同様の成形板本体・帯状材・嵌合用段部を形成したキャップのうちの一つを嵌合して、これと脚部材及び合成樹脂製成形板本体とを固着連結してあるところ、右固着連結の方法としては、第8図ないし第11図に示されるように脚部材内に挿入されたボルト・ナットによるほか、接着剤による接着や溶着でもよいとの明細書の記載(3欄15行目ないし26行目)、及び引用公報記載の先行技術における、プラットホーム(成形板本体)の周辺部に比較的大きな開口が穿設されるがゆえにそりや歪みなどの変形が生じやすく強度上問題があり破損しやすいとの欠点を解消したとの前記記載に照らせば、右にいう「比較的大きな開口」というのは、脚部材(成形板本体との固着連結の安定上、相当程度の横断面積を有するものであることを要する。)の内径に等しいような開口をいい、本件発明においては成形板本体にそのような開口は存在せず、ボルト・ナットによって脚部材を成形板本体に固着連結する場合は成形板本体にはボルトを挿入するための孔が存在するのみであり、接着剤によって接着し又は溶着する場合は成形板本体には全く開口が存在しないものと解されるから、成形板本体に脚部材の内径に等しいような開口を設けてここに成形板本体とは別個の部材を挿入することによって嵌合用段部を形成するような技術的思想とは全く相容れないものといわなければならない。

(三) 本件発明において、脚部材に嵌合されるキャップは、成形板本体と同様、「嵌合用段部」が形成されるが(4欄41行目ないし42行目)、本件明細書中には、キャップ本体と別個の部材を用いて右「嵌合用段部」を形成するという技術的思想を窺わせる記載は何ら存在せず、かえって実施例を示す第11図には嵌合用段部が一体成形されたキャップが示されている。

以上によれば、本件発明において、成形板本体の裏面に形成される「嵌合用段部」は、成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものをいい、これに限定されると解するのが相当である。

2  これに対し、控訴人は、次の(一)ないし(三)のように主張するが、いずれも採用することができない。

(一) 控訴人は、「嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体」にいう「形成」という用語は、「物事を統一してととのったものに形づくること」を意味するうえ、形成される対象物について単に「成形板」という表現ではなく「成形板本体」という表現が用いられており、本体という用語は「付属物を除いた主体となる部分」を意味するから、成形板の裏面に複数の嵌合用段部を形づくる技術的構成はすべて右記載の意味内容に含まれると解すべきであると主張するが、「嵌合用段部を形成してなる合成樹脂製成形板本体」という語は、通常、その「付属部分を除いた主体となる部分」すなわち「合成樹脂製成形板本体」の一部分に「嵌合用段部」が形成されていることを意味することは前示のとおりである。

(二) 控訴人は、本件発明において、成形板本体に比較的大きな開口を穿設する必要が全くないことと、成形板本体の裏面に形成される「嵌合用段部」が成形板本体に一体成形されたものに限定されると解すべきこととは全く関係がないと主張するが、本件公報によれば、本件発明においては、引用公報記載の従来技術との対比から、右にいう「比較的大きな開口」とは、脚部材(成形板本体との固着連結の安定上、相当程度の横断面積を有するものであることを要する。)の内径に等しいような開口をいい、成形板本体に脚部材の内径に等しいような開口を設けてここに成形板本体とは別個の部材を挿入することによって嵌合用段部を形成するような技術的思想とは全く相容れないことは前示のとおりであり、成形板本体に比較的大きな開口を穿設する必要が全くないことは、成形板本体の裏面に形成される「嵌合用段部」が成形板本体に一体成形されたものに限定されると解すべき根拠になることは明らかである。

(三) 控訴人は、また、本件発明において脚部材に嵌合されるキャップについて、本件公報中にはキャップ本体とは別個の部材を用いて「嵌合用段部」を形成するという技術的思想のみならず、キャップ本体と同一の部材を用いて「嵌合用段部」を形成するという技術的思想を窺わせる記載も何ら存在しないから、このようにいずれも記載されていないものの一方を採り上げて限定解釈の根拠とするのは非論理的であると主張するが、前示のとおり実施例を示す第11図には嵌合用段部が一体成形されたキャップが示されているのであり、キャップ本体と同一の部材を用いて「嵌合用段部」を形成するという技術的思想を窺わせる記載の存在することが明らかである。

3  控訴人は、本件発明の出願の経過をみると、「嵌合用段部」を成形板本体と一体的に成形するか、それとも引用公報に示されるように成形板本体とは別個の部材を用いて形成するかは、設計上の微差にすぎないことが明らかであり、それはまた、出願人である控訴人の意図とも一致すると主張するが、右主張の採用できないことは、次の(一)ないし(四)のとおり付加訂正するほか、原判決六枚目表四行目の「まず、」から九枚目裏一行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決六枚目表四行目の「乙二ないし九」の前に「甲九の三・四、」を加え、一〇行目ないし末行の「特公昭三六-二三二一八号公報」を「引用公報」に改める。

(二) 原判決七枚目表末行の「審判請求をなしたところ、」を次のとおり改める。

「審判請求をなし(甲九の三)、その昭和五二年九月八日付審判請求理由補充書(甲九の四)において、本件発明は、『〈1〉成形板本体に比較的大きな開口を穿設する必要が全くなくシンプルな形状ですむので、成形板本体を成形する際に、ソリ、歪み等の変形が生じることなく強度上も極めて大きいものを得ることができる。又、所望形状の成形板体を形成するのも容易であり所望される一定品質の成形板本体を得ることができる。〈2〉脚部材を介して成形板本体2枚を一体的に結合したものは両面使用が可能で重量物用のパレットとして使用することができ脚部材を介して成形板本体と帯状材あるいはキャップを一体的に結合したものや、成形板本体に長尺状に形成した脚部材を一体的に結合したものは片面使用が可能な軽量物用のパレットとして使用できる。』のに対し、引用公報記載のものは、〈1〉前記1(二)に説示したと同旨の、プラットホーム(成形板本体)の周辺部に比較的大きな開口が穿設されるがゆえにそりや歪みなどの変形が生じやすく強度上問題があり破損しやすいという欠点、及び〈2〉『隔置柱とカップによって上部および下部プラットホームを一体的に結合して使用するもので、荷重が重いときは両面使用、軽いときは片面使用というように目的に応じた使い分けをすることができない。即ち、使用目的に応じた種々のパレットを形成することができない等の欠点がある。』から、本件発明と引用例のものとでは構成及び作用効果上において顕著な差異があると主張したところ、」

(三) 原判決九枚目表四行目の次に改行して次のとおり加える。

「 控訴人は、甲第一〇号証の添付資料である文献『プラスチック成形品の設計』を挙げて、本件発明の出願時(昭和四五年一一月一二日)において、『複数の嵌合用段部を樹脂成形時に一体成形してなる合成樹脂成形板』は既に公知・慣用の技術となっていたから、出願時の技術水準を前提とすれば『嵌合用段部』が成形板本体と一体成形されるところに先行技術との相違点があると判断されることはなかったはずであると主張するが、右文献に記載されているのは、単に補強用のリブやボスを設けた成形品(積重ね可能な運び箱等)にすぎず、裏面に脚部材を嵌合するための嵌合用段部を一体成形した成形板本体ではないから、右文献をもって直ちに、荷積用パレットの分野において複数の嵌合用段部を樹脂成形時に一体成形してなる合成樹脂成形板が公知・慣用の技術であったと認めることはできず(他にこれを認めるに足りる証拠はない。)、右主張は採用することができない。

また、控訴人は、本件発明は、前記構成要件A~Eを備えることによって、単一の金型でもって成形した成形板本体を用いて使用目的に応じた種々のパレット、すなわち、両面タイプ、片面タイプ、スキットタイプを形成することができ、多目的使用可能なパレットを提供できるところに特徴点を有しており、この点に当時の先行技術と比較して新規性及び進歩性が認められて特許されたものであると主張するが、右主張は、引用公報記載の先行技術の、プラットホーム(成形板本体)の周辺部に比較的大きな開口が穿設されるがゆえにそりや歪みなどの変形が生じやすく強度上問題があり破損しやすいという欠点を挙げて、本件発明はこの欠点を解消したものであるとする明細書や前記審判請求理由補充書の記載に反するばかりでなく、甲第四号証(引用公報)、乙第一〇ないし第一五号証及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の出願時において、右のような両面タイプ、片面タイプ、スキットタイプの三タイプの組立式パレットが存在したことが明らかであり、そのプラットホーム(成形板本体)が右三タイプに共通して使用できることも知られていたと認められるから、先行技術との比較において右主張のような多目的使用可能なパレットを提供するという点に本件発明の特徴点を見出すことはできない。」

(四) 原判決九枚目裏一行目の「参酌するまでの必要はない。」を「参酌するのは相当でない。」に改める。

4  以上のように、本件発明にいう「嵌合用段部」とは成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものをいい、これに限定されるところ、イ号物件は、原判決添付の別紙物件目録の記載によれば、荷台1(成形板本体)に九個の連結孔3を穿設し、この連結孔3から雄ネジ6bが刻設された九個の固定子6を荷台1の裏面に突出させ、これに雌ネジ5fが刻設された脚筒5(脚部材)の内筒部5aを螺合したものであって、控訴人は、イ号物件においては荷台1の裏面に固定子6を突出させて嵌合用段部を形成していると主張するが、その固定子を荷台の裏面に突出させることにより形成しているという嵌合用段部は、成形板本体に相当する荷台と一体成形されていないことが明らかであるから、イ号物件は本件発明の構成要件Aを充足しないものというべきである。

控訴人は、甲第一五号証(控訴人作成の参考図面)を提出し、本件明細書にいう「比較的大きな開口」は従来技術のものを前提とする表現であるから脚部材の「内径」とほぼ等しい大きさの開口を指すものと考えられ、イ号物件における連結孔(開口)は従来技術と比較すれば約三分の一の大きさであるから、比較的大きな開口が穿設されていると評価すべきでないと主張するが(平成四年一二月二日付準備書面。なお、平成五年一月一四日付証拠説明書では、イ号物件には引用公報記載のもののように脚部材の「外径」とほぼ等しい大きさの比較的大きな開口が穿設されていない、と記載されている。)、同図は、本件発明の実施例の第8図、第11図、甲第四号証(引用公報)の第3図、イ号物件の第3図を、脚部材(隔置柱、脚筒)の外径が単純に等しいものとしてそれぞれ簡略化して比較したものにすぎないから、直ちにイ号物件の開口が従来技術と比較すれば約三分の一の大きさであるとはいえないのみならず、前示のとおり本件明細書にいう「比較的大きな開口」とは脚部材の内径に等しいような開口をいい、本件発明においては成形板本体にそのような開口は存在しないというのであるから、脚部材(脚筒)の内径と等しい開口(連結孔)の穿設されているイ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないものといわなければならない(イ号物件は、引用公報記載の荷積用パレットにおいて、上部及び下部のプラットホームの開口に挿入されたカップ(固定子)の円筒壁が隔置柱(脚筒)の内面に摩擦的に堅く嵌合するとともにその外側直角フランジがプラットホームの外側面に対して触圧するという構造に代えて、雄ネジが刻設された固定子と雌ネジが刻設された脚筒の内筒部とを螺合するという構造を採用し、その隔置柱(脚筒)の壁厚を厚くしたことに伴い、その構造を、内筒部5aと外筒部5bとを補強壁5cと補強板5cを介して一体的に結合した二重構造に形成したものにすぎず、右先行技術の単なる延長上の技術の域を出ないと認められる。なお、引用公報においても、隔置柱は外径が三ないし六インチ、壁厚はほぼ二分の一インチであるが、この寸法に限定されず、適当に選択できることが示されている〔甲第四号証(2)頁右欄21行目ないし25行目、(3)頁右欄11行目ないし12行目〕。)。

5  控訴人は、仮に本件発明にいう「嵌合用段部」が成形板本体の裏面にこれと一体成形されたものをいうとしても、(1)本件発明の出願時において、「複数の嵌合用段部を一体成形してなる合成樹脂成形板」は既に公知・慣用の技術となっており、そして、プラスチック製品を造るに当たって製品を各パーツに分けて各単独に型押しして造り、これらを組み立て装着して目的の形状のものを得ることは普通に慣用されていたから、本件発明において「嵌合用段部」を成形板本体と一体成形するという技術を、成形板本体とは別個の部材を用いて「嵌合用段部」を形成するという技術に置換することは可能であり、また、その結果、本件発明の目的及び作用効果が異なることもなく(置換可能性がある。)、(2)本件発明の詳細な説明の記載には、固着連結手段としてのボルト・ナットやこれを挿通するための連結孔、ボルト・ナットの頭部を嵌入して表面を平板状にするための凹窪部が開示され、また、全体を一体成形するパレットの品質面の問題点を指摘し、各部材を別に成形したうえ組み立てることを開示しているから、一体成形されるべき「嵌合用段部」を別個の部材で形成するということは、出願時における当業者であれば本件発明の構成の記載から当然に想到しうるというべきであり(置換容易性がある。)、したがって、「嵌合用段部」を成形板本体と一体成形することと成形板本体とは別個の部材を用いて形成することとは均等の技術であるから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する旨主張するが、荷積用パレットの分野において複数の嵌合用段部を樹脂成形時に一体成形してなる合成樹脂成形板が公知・慣用の技術であったと認められないこと前示のとおりであるのみならず、イ号物件は、荷台1(成形板本体)に九個の連結孔3を穿設し、この連結孔3から雄ネジ6bが刻設された九個の固定子6を荷台1の裏面に突出させ、これに雌ネジ5fが刻設された脚筒5(脚部材)の内筒部5aを螺合したものであり、控訴人が本件発明における嵌合用段部に相当するという部分は、その固定子を荷台の裏面に突出させることにより形成されるものであるが、本件発明は、このように成形板本体に脚部材の内径に等しいような開口を設けてここに成形板本体とは別個の部材を挿入することによって嵌合用段部を形成するような技術的思想とは全く相容れないものであることは前示のとおりであり、イ号物件においては「プラットホーム(成形板本体)の周辺部に比較的大きな開口が穿設されるがゆえにソリや歪みなどの変形が生じやすく強度上問題があり破損しやすい」という従来技術の欠点を解消したという本件発明の効果を奏しえないと解されるから、右均等の主張も理由がないというべきである。

6  以上のように、イ号物件は、本件発明の構成要件Aを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

二  したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がないものといわなければならない。

第四  結論

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山崎杲 裁判官 水野武)

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